研修ラーニング

OJTを成功させるための基礎づくりとは

OJTの心構え
労働人口の減少やデジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は激しく変化しています。また、働く人の働き方に対する意識や価値観OJT(On the Job Training/現場における教育、指導)は人材育成の手法の中でも、最もポピュラーな手法といえます。
労働政策研究・研修機構が2021年2月に公表した「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」によると、重視する教育訓練の方法について「日常業務を通じた教育訓練である」もしくは「日常業務を通じた教育訓練に近い」とした企業は全体の約9割(87.7%)とのことです。
一方で、3割の企業では人材育成・能力開発の方針を定めていないという調査結果もでていることから、OJTを実施しているつもりでも、単に指導者から部下へ指示や、場当たり的な指導・注意を行っているだけのOJTとなっている可能性が高いです。
また、規模別にみると、規模が小さくなるほど育成方針を定めていない企業の割合が大きくなり、9人以下の企業では特に高い割合(42.2%)を占めています。
OJTを実施し、より効果的な人材育成を実現するには、場当たり的な指導ではなく、計画的な指導が大切になるといえます。

そこで、この記事では、「OJTを成功させるための基礎づくり」として、OJTの人材育成・能力開発の基本的な仕組みや、OJT担当者の心構えなどについてお話したいと思います。

1.「7・2・1の法則」

人材育成には「7・2・1の法則」というものがあります。これは、「人が成長するとき、学びを得る割合は『業務経験』から7割、『薫陶(助言)』から2割、『研修』から1割」という、能力開発方法の影響度の違いを示すものです。
このことからも、人材育成において、業務経験と助言から学ぶ力を強化するOJTがいかに重要なのかがわかると思います。
そこで、まずはOJTによって、社員が成長する基本的な仕組みについてお話したいとおもいます。

2.経験学習

OJTの基本的な仕組みは、「経験学習」の考え方から成り立っているといえます。
経験学習とは、「仕事の経験をした後、その経験をきちんと振り返り、うまくいったこと、うまくいかなかったことを内省し、そこから教訓を導き出し、新しい仕事に実践することで深い学びを得る」というものです。
同じような仕事の経験をしても、そこから学んで成長する人もいれば、そうでない人がいます。その違いは、先ほどの経験学習の説明の、「仕事を経験した後」以降の部分をしているのか、していないかの違いと言えます。
そして、その「仕事を経験した後」以降の部分を部下から導き出す役割を担うのがOJT担当者といえます。
つまり、場当たり的に単に仕事のやり方を教えるだけでは、真のOJTとはいえません。真のOJTにおいて重要なのは、「まずは仕事のやり方を教え、実際に経験させ、それを振り返らせ、次回への教訓を得たうえで、また新たな経験を実践させる」ことをOJT担当者がサポートしながら、部下が成長していくことといえます。

3.OJTの7つのステップ

経験学習に沿ってOJTを実施する場合、大きく次の7つのステップに分類することができます。
① OJTの基礎づくり
② 目標設定
③ 計画立案
④ 実行
⑤ トラブル対処
⑥ フィードバック
⑦ 振り返りと学びの抽出

それぞれのステップを具体的にみていきましょう。

① OJTの基礎づくり
OJTの実施に先立って、そもそもOJTを「なぜ実施するのか?」「どのような効果があるのか?」などについて、部下やOJT担当者だけでなく、職場全体で理解しておくことが、OJTを成功させるため最も重要なことと言えます。
例えば以下のようなことが挙げられます。
・OJTを取り組むことは、部下だけでなく、OJT担当も飛躍的に成長することを関係者が理解しておくこと
・部下とOJT担当者との信頼関係の構築の重要性や教育方法にはいくつか型があることを理解しておくこと
・場当たり的な指導ではなく、自社の方針や理念に沿った指導の重要性を理解しておくこと

② 目標設定
目標を設定するうえで、目標の「内容」と「レベル」の2点を意識することが大切です。
また、目標設定の意味をしっかりと部下に言葉で説明することで「納得」してもらえるように導きましょう
・目標の内容:短期目標や成果目標だけでなく、長期目標や学習目標など、バランスのとれた目標の設定
・目標のレベル:かんばればギリギリ手の届く目標を設定すると効果的です。OJT指導者が、部下を期待し、励ますことが、部下が目標に立ち向かうために非常に大切になります。

③ 計画立案
目標を計画に落とし込むにあたって、計画の全体像をイメージできるようにすることが重要になります。
また、部下の成長に合わせて、教育方法を変えることも大切です。
目標を分解するなどして、成長段階のポイントを予め計画に落とし込んでおくことも有効な方法です。

④ 実行
実行段階において、大きなポイントとして次の3つがあります。
・日々の声かけ:OJT担当者が部下の成長に関心を持っていることを示すことで、モチベーションの維持や、問題発生を未然に防いだり、早期の解決に繋げたりすることができます
・定期的な面談:面談において重要なのは部下の話をしっかりと「聴ききる」ことです。信頼関係を強くすることや、進捗状況を把握することが可能になります。
・職場全体での共有:部下とOJT担当者の1対1の閉じた関係ではなく、職場全体で部下の状況を把握できるようにしておくことが大切です。そうすることで、OJT担当者の負担感の低減や、担当者の指導力のみに依存しない育成体制をつくることができます。

⑤ トラブル対処
OJTを実施する場合、新入社員や若手の育成のケースがほとんどですが、その際トラブルが発生することは珍しくありません。
トラブルを未然に防ぐことも大切ですが、発生した際にどのように対処するかは育成においてより大切と言えます。
トラブル対処において大切なポイントは大きく3つあります
・相談しやすい雰囲気、環境づくり:部下がトラブルを抱えた際、安心して相談できる雰囲気をつくることが大切です。OJT担当者も、通常業務があり忙しいかもしれませんが、週に数分でも部下のための時間を定時で確保しておくなどするとよいでしょう。
・問いかけることで部下の話を聞くこと:部下を中心に話を進めながら、事実と部下の意見を区別しながら聞きとるようにしましょう
・基本的にはヒントを与え、部下自身に考えさせる:部下が自ら考え、最終的な対処法を出すことが理想です。しかし、部下の能力やトラブルの大きさに応じて、対処法を変えることも大事です。

⑥ フィードバック
節目節目で適切にフィードバックすることが、OJTを、場当たり的な指導ではなく真のOJTとする肝といえます。
フィードバックでは、適切に「ほめる」「叱る」ことで本人の内省につなげることが大切になります。
・ほめる場合は、「何が良かったのか」「どこが伸びたのか」を具体的に説明し、才能よりも努力を認めることが重要なポイントとなります
・叱る場合は、客観的事実に基づいた、明確な理由を伝え、簡潔に叱りましょう。感情的になっている場合は、時間を置いて冷静になってから叱るようにしましょう。

⑦ 振り返りと学びの抽出
フィードバックをするだけで、部下本人に内省させなければ、決して成長することはありえません。OJT担当者は部下が仕事を振り返り、そこから学びを抽出できるようにサポートしましょう。
担当者自身や職場の他のメンバーの成功談や失敗談を聞く機会などを提供するとより有効です。

4.OJTの基礎づくり

さて、以下では、7つのステップの一番初めの段階である「OJTの基礎づくり」について、より詳しく掘り下げて見ていきたいと思います。

【基礎づくり①:OJTで成長するのは部下だけじゃない】
OJTは、部下の能力向上だけでなく、OJT担当者のマネジメント力の向上においても絶好の機会と言えます。
つまり、OJTを通して、担当者は、マネジメントの基本である「目標を部下と共有する能力」を身につけることができます。
担当者は、自分自身の業務もあるため非常に忙しいかもしれませんが、自分自身の成長や将来にもつながると考え、前向きな気持ちで取り組むことで、結果的に良い方向に進めることができるのではないでしょうか。

【基礎づくり②:OJT指導で困ったときの拠り所をつくっておく】
OJTにおいて、担当者は、場当たり的に好き勝手に指導するのではなく、自社の方針や理念に沿った指導を行う必要があります。
その際、「使命」「価値」「誇り」を確認し、それをしっかりと部下と共有しておくことが有効になります。
・使命:社会や自社における自分たちの仕事の意義・使命は何か
例)「我々の仕事は〇〇の面で世の中に役立っている」
「我々の部署で〇〇をしているから、会社は〇〇できている」
・価値:自分たちが守るべき価値は何なのか
例)「我々は何があっても、〇〇だけは譲れない」
「我々の〇〇は、他社には絶対負けない」
・誇り:組織・チームの一員であることに誇りを持っているか
例)「この仕事は〇〇という点で楽しい」と胸を張って言える

このように、自社の方針や理念に沿った指導を行うことは、担当者が指導法に困ったときの拠り所をつくることにつながります。

【基礎づくり③:ガードレール型の指導で、部下の自主性を育てる】
教育方法には大きく次の3つの方法があるといわれています
・線路型:指導者がゴールやそこにいたるレールを決め、レールからはみ出すことや、遅れを許さない指導方法
⇒目標は達成しやすいが、部下には考える余地がなく、気づきは生まれにくい
また、部下のモチベーションも低下しやすい傾向にあります。

・放牧型:指導者は明確な目標を示さず、すべて部下の自主性に任せる指導方法
⇒部下が考える余地は大きいですが、目標が不明瞭なため、方向性を見失うおそれがあります。
また、自主性が足りない部下の場合は、成長が小さくなります。

・ガードレール型:指導者が目標を設定しますが、そこに至る道筋は一定の範囲で部下の裁量に任せる指導方法
⇒目標を見失うことがないようにサポートしながら、部下に自主的に考える余地を与えることができます
また、部下が一定の範囲内から逸脱しそうなときは、OJT担当者が支援することで逸脱を防止する必要があります。

【基礎作り④:目標設定をしないから、部下が指示待ち社員になっている】
人材育成において目標を設定することは非常に大切な要素になります。目標を設定されていない場合、部下は、何をすればいいのか方向性がわからず、その結果、指示されたことだけをするようになってしまいます。
また、自主性の観点で目標設定を考えると、売上目標のような大きな目標だけでは不十分といえます。大きな目標を達成するための、経過での小さな目標をポイント、ポイントに設定することが重要となります。
さらに、数値目標だけでなく、上司の「期待する人物像」や、部下本人の「なりたい自分」といったような定性的な目標も設定しておくとよいでしょう。

【基礎作り⑤:信頼関係の構築こそOJT成功の最大のカギ】
OJTにおいて部下と担当者が互いに信頼しあうことは、非常に大切になってきます。
部下が担当者を信頼していない場合、同じ指導を受けたとしても、信頼していない相手からの言葉を素直に受け入れることができなくなります。結果、モチベーションが下がったり、指導したこととは違うことをするようになってしまいます。
また、OJT担当者も部下を信頼する必要があります。特に、部下に対して「成長する」「伸びるはず」と信じて接することが重要になってきます。
そのように部下を信頼することで、例えば部下が失敗した場合などでも、次のような指導方法を自然ととることができるようになります。
・「部下が失敗したのは、指導方法にも改善点があるかもしれない」と考える。
・「今回の失敗をばねに、再挑戦させてみよう」とさらなる成長の機会を与える。

【基礎作り⑥:OJTは職場全体で取り組む】
OJT担当者も自身の業務があり、常時部下の指導をすることは不可能です。
そのため、OJTは職場全体で取り組むことも大切です。
具体的には、次のようになケースが考えられます。
・担当者が外出や出張する場合や、担当者の苦手な分野の指導などは他のメンバーに指導をお願いする。
・OJT担当者以外のメンバーに仕事での成功体験や失敗体験を話してもらう。
・状況に応じて、担当者以外のメンバーが、部下を励ましたり、褒めるなどの感情のケアを行う。

5.さいごに

ここまで、OJTの全体像や基礎づくりについてお話させていただきましたが、これらすべてを完璧に実行するとなるとOJT担当者の負担はかなり大きなものになると思います。
その結果、OJT担当者の本来の業務がおろそかになったり、指導が中途半端になったりしては本末転倒です。特に、中小企業の場合は、人材育成に充てられるリソースに限りがあります。
そこで、まず重要になるのは、職場全体でサポートすることです。
それでも、なかなかリソースが足りない場合は、OJT担当者や管理職は、OJTを成功させるためには今回のような考え方があるということを十分に理解したうえで、「この部分とこの部分だけは徹底して必ずおこなう」といったようにポイントを絞って、OJTを実施していくとよいでしょう。

最後までご覧いただきありがとうございました。
今回の記事が、皆さまの人材育成・OJTの一助となれば幸いです。
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